となると、皆さん手を出してきていて先に減ってはいますが、まだ実際に着られる訳ではない冬アイテムよりも、今まさに旬な秋に良い感じになる様別注したトリッカーズを紹介してしまうべきでしょう。何しろ今回紹介するモデルはオーセンティックなのにマニアック、そして様々なギミックを施したスペシャルな別注です。

取り敢えず、モデル自体は2009年の秋冬から展開しております。かつてはアニリンカーフで作りました。色もMS06とMS07をイメージしまして(かつてはこんなこと書いておらず店頭にてネタばらしをしておりましたw)、わたくしの趣味丸出しで、一見大変由緒正しく見える為、ネタをばらすと英国皇太子御用達ブランドにそんな事させるなや!というツッコミが入る、まさにネタでした。そちらは現在こちらにあるのでもしなんでしたらご覧下さいませ。
ま、そのネタはともかくとしてというかネタはネタとして、実際に服に合わせていまいちなもの、ネタだけが先行して出来上がってみたら企画者の単なる自己満足で終わってしまうもの、そういう別注は見てる分には楽しいですけど(うわ〜、こんなことやっちゃってるよ、面白いけど履きたくないし売れねぇだろなぁ・・・と思う訳です)、やはり実用品ですからヘヴィローテーションで使ってもらえてナンボですよね。実際ビジネスシーンも想定して別注した珈琲カラーのウィングチップ(こちら)なんかはオールソールで交換する迄履いて頂き、ソール交換の際に“レザーソールの靴が揃ってきたし、この靴凄く履いてるからこの際ダイナイトソールに交換して”と依頼されて交換するぐらいに使って頂いております。
この場を借りて何を書こうかっていうと、最近何でもかんでも別注って名乗って作るところが多いんですけど、ただ単純に色替えてみたりソール取っ替えてみたりしたところで、何処でどんな格好に合わせてどう使うのか、例えばレッドウィングで充分なビブラムのウェーブソールを装着したプレーントゥブーツをトリッカーズに作らせてどうするのか、って事です。ただ他店との違いを主張するだけとか(違うのは判ったけどちっとも良いと思わないんですけど・・・・となります)、希少性を謳うだけとか(レアだったらあまり履かなくてもお客様にとって良いのでしょうかねぇ)、それだけでは別注する意味がありません。服に合わせてどうなのか、またどういった服になら合うのか、それは単なる思い付きでハズシとか崩しとかじゃなくチグハグで残念な感じになるだけの別注じゃないか。別注に意味があるとしたら、他社にそのポジションに合うものがなく、尚且つ定番ではその味が出せないオリジナリティをお客様に判ってもらえる物を出せた時だけでしょう。
と、ひたすら別注し続けるわたくしが書くのもなんですが・・・・
でも常にそこ迄考えて別注しとるんじゃと威張っておきましょうww
で、前振りが長くなりましたが。まずここのところB.A.T別注はもうこればかりになっている、という惚れ込み素材、キャバリアーレザー、しかも春夏でローファーもこれでやったウィートカラーです。カーフを靴クリーム入れて磨き上げたバーニッシュも良いんですけどね、ムラ感というか素材の経年変化による育ち具合が段違いなのです、キャバリアーレザー。でも他社さんは殆ど使わない。適当な別注に対して警鐘を鳴らしましたが、そりゃ売れないと困るけど素材の良し悪しを今迄の実績でしか見ないのであれば、それはそれで悲しい事です。こう書いてはなんですがセレクトショップなんてそのバイヤーの目利きが全てですから。かつてこのウィートでアンクル丈のギリーブーツを作っています。即完売したのですが、その靴を履いていらっしゃるお客様がご来店の時に拝見しておりますが、それはそれは良い感じにエイジングをしております。何しろキャバリアー(騎兵)用ですから。
で、トリッカーズのジョージブーツについての説明は上のかつての紹介を参照して頂くとして、そもそもジョージブーツ、巷でこの名前を名乗るまったく別物を見受けますが、これ1952年に一昨年公開の映画“英国王のスピーチ”でも知られるジョージ6世の進言により陸軍士官用として開発されたもので、階級の高い者とはいえ軍人さんの為に発案されたブーツなのです。形はチャッカブーツに酷似しておりますが、軍靴ですので踝を完全に隠すぐらい迄高さがあり、脱ぎ履きがし易い様にと穴は3段。そして士官用なのでシャープで英国気質を世に知らしめるスマートな型、という定義です。
要するに踝隠れるかどうかぐらいの高さで穴が2つとか、そもそもボテッとしてるのはジョージブーツではないのです。自称で勝手に名乗るのは勝手ですが、少なくともジョージ6世の発案したジョージブーツではありません。皮肉な事にその出来不出来ではなくオールデンがワンストラップのチャッカブーツにジョージブーツという名をつけているらしいのですが、まったく歴史も定義も顧みずにトリッカーズにワンストラップのチャッカブーツ型があるのをジョージブーツだと喜んで書いているショップ等がありますが、それはまったくの間違いです。起源や定義がある名前を判らずに使っていると恥ずかしい限りです。
さて、長々と定義を書きましたが、もうお判りですね、そう、だからこのジョージブーツをキャバリアーレザーで作りたかったのです。陸軍士官用ブーツを騎兵用をイメージして作られた革で作る。これ程コンセプトと素材がマッチしている事もございますまい。更に。スクウェアトゥと書きましたが、このカッティングは所謂チゼルトゥと呼ばれる英国靴における伝説の巨匠、ジョージ・クレバリー氏が得意としたのみで削ぎ落とした様なシャープなカッティング。そのシャープさは英国然とした、というコンセプトにピッタリですし、巨匠へのオマージュとして同じ名を冠するジョージブーツに使ってみました(これは洒落です。でもこだわるという事は遊ばないという事ではないのでw)。
更に軍靴です。そこ迄こだわったのならコマンドソールにするべきでは?というご指摘があるかもしれません。がしかし。コマンドソールは確かにその名の通りコマンド(兵士)の為に考案されたものですが、これを履くのはコマンド(兵卒)ではなくオフィサー(士官)なのです。そして兵を統率するものはジェントリーであれ、というコンセプトからいってここはやはりダイナイトソールでしょう。レザーソールは良いのですが、アクションを起こす時の機動性に欠けますからねぇww
そして陸軍色に近いウィートだけに、ソールはレンガ色のダイナイトソールにして合わせるウェルトのレザーはナチュラルに。これはまぁアッパーと一緒に育ってね、という想いを込めて。で、最後にもう1つ。英国の近衛兵といったらキットカットの古いCMを思い出して頂けるとイメージし易いと思うのですが、白いパンツに赤いライディングコートを着て閲兵しております。その赤に英国王へのオマージュを込めて。インソールを全面深紅にしてあります。そして外羽根の合わせ目からよく見るとチラリと赤が覗いています。
とまぁこんな感じで、トリッカーズらしさと英国らしさをとことん追求したジョージブーツを、という事でこんなん出来ました。一見ツルッとシンプルですけどね、ここ迄想いを込めて作った靴です、しかも使い易い事この上無し。カジュアルにも、余程堅くなければビジネスにも。そしてお値段60,900円。通貨レートが円高状態とはいえ、材料費が上がっていて来年の秋には値上げが濃厚らしいので、その辺も考慮して手に入れておく事をお奨めします。
ふう、今回は力説やったww
でも実はもう1型トリッカーズあるんどす。こちらも今日の前回作ったジョージブーツのネタバラしがちゃんと伏線になっていたのね、という1足です。お楽しみに。
B.A.Tネットショップ“Blood &Thunder”にて通販対応しましたのでもし気になった遠方の方はこちらへ。

