ここにきて入荷ラッシュは止まる所を知らず、今日はフォックスファイヤーのフロントジップフィッシャーマンセーターの今年の新色(ブラウン×ネイビー!)とこのご時世にこれは凄い!と押さえたイタリア製のリサイクルカシミアのタートルネックセーター(3色展開です)の入荷がありました。明日は定休日で展示会廻りに行ってきますが、明後日にはフィルソン×ラングラーの入荷もあり、来週にはブラックシープの別注展開している英国で手編みしたゴルフカーディガン(丸首のアラン模様のカーディガン)の今年の新色であったり、グローバーオールのどうやら日本に5着程度しか入ってこないバーシティージャケットも入荷予定です。その辺で秋冬の納品は終了となりますが、未紹介アイテムは豊富にありますし、銘作紹介で紹介するアイテムも沢山ありますので、暖冬具合が想定以上だった昨年に比べて私としては納得のいく紹介が出来ると思っております。
で、本日紹介するニット、国内有数のニットのラインナップを誇るB.A.Tにおいて一度も取り扱った事のないアイテムであり、それでも今回オファーがあった際に、これ以上ニットを入れる隙間なんてありまへんがな、という店頭のキャパであってもこれはやりたいと足別注を決めた価値あるアイテムです。
まずこのクリケットセーター(これはベストですが)という物が一体どういう物なのか、とその起源は13世紀まで遡る英国及び英連邦やかつて英国の植民地だった国で人気のスポーツであるクリケットのプレイヤーが最初に着用した事からその名が付いております。17世紀半ばにはほぼ現在の形式が確定し、19世紀前半には米国においても人気No.1スポーツでしたが、南北戦争以降19世紀に米国で生まれた野球にその地位を取って代わられ1876年に野球のナショナルリーグが設立され米国での最盛期は終わってしまいますが、英国ではオーストラリアとのプロチームの対戦が行われる等人気は不動なものとなり、紳士のスポーツとしてプレイヤーはフォーマルな白いウェアを着用するのが一般的でした。白いフォーマルって結婚式の新郎か!?と思いますけどゴルフ同様紳士のスポーツというのはそれなりな服装を求められた、という事で。その中で、冬のユニフォームとして登場したのがクリケットセーターでした。
クリケットセーターの定義としては、身頃に施されたケーブル編みと襟元・袖口・裾に配されたストライプのラインが入っている事が挙げられます。これは伝統的(クリケット競技用として認定された物という意味で)には、白やアイボリーを基調とし、ネイビー・バーガンディ・グリーン・ゴールド等のコンサバティヴなラインがチームやクラブのカラーを反映するものとして入れられておりました。コートやジャケットといった布帛のアウターに比べて伸縮があり動き易く暖かかったので採用されたみたいですが、20世紀に入ると英国のパブリックスクールや大学、米国のプレップスクールやアイビーリーグのクリケットチーム所属の学生達が日常着としても愛用するようになり、結果アイビーやプレッピーといったスタイルのアイコンアイテムの1つとなりました。この時点でファッションアイテムとして確立したと言えるでしょう。
それとは別に何だかんだで発祥からして英国のスポーツであり、同じく英国発祥のスポーツであり服装的に同じようなフォーマルを求められていたテニスプレイヤーにも使用されたのですが、英国人のプレイヤーではなく19世紀末の1898年から3年連続で全米オープンを優勝したホイットマンが着用していたのが最も古い例であり、私もこのセーターをクリケットセーターというよりもチルデンセーターとして認識してましたが、このチルデンというのは1920年代に活躍し4大大会優勝10回を誇るアメリカの伝説的テニス選手ビル・チルデンに由来する日本での通称だそうな。というのも日本男子唯一の全英オープンファイナリストである清水善造とその1920年の全英オープン決勝で激闘を繰り広げたのがこのチルデンだった上、太平洋戦争が始まるその年1941年に来日して日本にプロテニスを広めたのもこのチルデンで、その状況での来日だったのに有明・甲子園・名古屋と3か所回ったどの会場も満員になったぐらいに人気だったそうなので、日本人にはチルデンセーターになったのも納得です。
で、私としてはこの歴史を踏まえつつ、白いセーターとかクリケットだろうがテニスだろうが上流階級のおぼっちゃま気取りで着る、というのはもう時代錯誤もいいところですし、となればその原理原則を謳う伝統至上主義的なトラッドスタイルにも付き合えませんが、実はこのオレンジの方のベスト、英国ブランドであるケスティンが3年程前に提案してボツった物をオマージュしておりまして。同じ英国羊毛でスコットランドで作ってましたが、草木染めで手紡ぎのニット糸というのにした結果当時で5万ぐらいになるベストになっちゃってまして、それでも私は発注したんですが敢えなくボツに。我ながら執念深いと思いますが、その当時見たクリケットベストでアースカラーというのがとても新鮮で、あれ、これ別に現代的に解釈しつつ様々なコンセプトで配色組んで問題ないじゃん、となったのですが、以来今年に至る迄クリケットセーターを他がやっていないのにB.A.Tだけで発注出来る条件の良さには行き当たらず。
ですが今回のこのオルダーニーを何故かクリケットセーターで紹介されて、それならばやろうという事になったのです。何故かクリケットセーター、というのはこのオルダーニー、これ英国ではありますが、ガーンジーセーターのガーンジー島と同じくチャネル諸島にある島であるオルダーニー島というのがありまして、ガーンジーとはまた微妙に違う文化を持っていて、ガーンジー島と同じ英国王室領であり独立行政区として英国王から承認されているという今回取り扱う事になる迄私も全く認識していなかった非常にマニアックな英国の、そこの名を冠したニットブランドなんです。調べるとほぼガーンジーセーターと同じなのですがあたたのパターンが微妙に違うオルダーニーセーターがあり、そっちを推さないんだ、と不思議に思いましたが私としてはクリケットセーターの方が欲しかったので、このマニアックさを含め千載一遇のチャンス!!という事でイラレ上で何十回も修正を繰り返して糸帳と睨めっこして渾身の別注を組みました。
英国羊毛なのでミドルゲージにはなってしまいますが、今回セーターのみならずベストを作っても良いとの事でしたので、1柄はそのボツったケスティンのカラーリング提案をベースに紅葉や落ち葉といった秋冬のイメージで暖かみのあるアレンジにし、もう1柄はグレー系のグラデーションで糸を統一しつつ、地色とラインの色とのコントラストで3色全て違う色にして作る、というコンセプトで配色を組みました。そしてオーセンティックでベーシックな地色であるグレーに関してはよく見ないと写真では判らないと思いますが、ネップの入った糸をセレクトしております。逆にアーシーな配色の地色であるレンガ系のオレンジには杢調の糸をセレクトして差別化を図っており。
因みに日本代理店のラインナップは白地に2本ネイビーのラインと逆配色でネイビーに2本白のライン、そしてライトグレーに2本黒のライン、というこれでもかとアイビー&プレッピーの定番にしておりますし、糸も全てソリッドな物を組み合わせているので、全くの別物と言って良いでしょう。
サイズは今回38・40・42の3サイズ展開で、価格は25,300円(税込)です。これ別注しても展示会のラインナップで取っても価格は同じなので、後々紹介する別注のセーターを含め、とても高見えしていると思います。そして4色も色を使っていますけどグラデーションや同系色、コンセプトに沿った相性の良い色を組み合わせておりますので、ガチャガチャとした煩い感じは全くしていません。来年は値上がりはどうやら確実みたいですし、諸事情によりミニマムオーダー数がアップする可能性を代理店が示唆しておりますので、そうなると来年はやらない、という事になりかねず。それもあるので是非早めにチェックしてみて下さいませ。
という事で明日は展示会、来春夏の盛夏展(2回目の展示会)を行うハリスとその会社の他のアイテムの展示会に行ってきますが、いつも通り16時には戻ってブログを書いております。明日は展示会報告と言ってもさらりと終わりそうなので、もしそうならアイテム紹介になります。展示会報告かアイテム紹介かどちらになるかは明日のお楽しみ、という事で。

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